日本銀行は20、21日に今年最初の金融政策決定会合を開く。2013年4月に「2年程度で2%に物価上昇率を引き上げる」との目標を掲げ、大規模な金融緩和を始めた日銀にとって、正念場の年になる。目標の達成はできるのか。これまでの金融緩和をどう見るか。識者に聞いた。

(聞き手・福田直之)

■人手不足の実態、浮き彫りに 竹森俊平さん(慶大経済学部教授〈国際経済学〉)

日本銀行金融緩和の結果進んだ円安で損する人はいる。円安は輸出企業に補助金を与え、その原資を家計と輸入企業が負担するような効果を持つからだ。だが、企業への刺激がなければ経済成長もない。企業業績が良くなれば、やがて家計にも恩恵が行き渡る。

追加緩和で円安がさらに長引く見通しになったので、企業は投資を拡大して輸出能力を増やすだろう。原油安も朗報だ。米国経済が刺激され、需要が盛り上がることによる輸出の成長が期待できる。

いまのところ、日銀の期待通り「物価が上がる」という見通しを人々が持つにいたっていない。これからの春闘で賃金が引き上げられれば、その方向に一歩進むだろう。景気の実感も、今後原油安を追い風に改善するだろう。2年程度で2%にするという物価目標がたとえ未達成になっても、原油価格が下落したからと言い訳ができる。円安という実績をあげた以上、目標達成にこだわらなくてよい。

金融緩和の最大の成果は、雇用を促進することで人手不足という日本経済の根本問題を明確にしたことだ。政府は女性労働力の活用を言い始めており、今後は日本への移民も考えるべきだ。環太平洋経済連携協定(TPP)といった自由貿易交渉で、労働の開放も考えるべきだ。

■2%達成後、出口戦略に懸念 早川英男さん(富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー、元日銀理事)

円安は、二極化を引き起こしている。輸出企業を中心に大企業には利点が多い一方、家計や中小企業、地方には悪影響ばかりだ。企業は円安でもうけた割には設備投資をしていないので、波及効果が小さく、格差が是正されない。不幸なことに、円安の悪影響を被る層と、消費増税で負担を感じる層が、ほとんど重なっている。彼らは二重に痛めつけられて、増税への反感が強まったのではないか。

2%の物価上昇率は、長い目で見れば望ましい。ただ、1年半くらい物価上昇率はプラスで、持続的に物価が下落するデフレではなくなっている。もはや2年にこだわる必要はない。無理をして達成しようとすれば、二極化を生み出す円安に頼るしかなくなる。

心配なのは、日本の財政への信頼が続くかどうかだ。仮に今後、どこかで2%を達成すれば、日銀は緩和を手じまいすることが求められる。そのときに日本の財政が持続可能な状態だと市場が信じていなかったら、何が起きるか。

日銀が市場から国債を買うのをやめた場合には長期金利は急騰し、財政危機になるだろう。反対に財政に配慮して買い続ければ、おそらくどんどん円安が進んでインフレが加速していく。終わることのできないゲームになってしまう。

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