社説:核不拡散 人類の危機を見つめよ

毎日新聞 2015年04月26日 東京朝刊

 広島と長崎の被爆から70年、これが核軍縮の現実かと思うと悲しくなる。「核兵器のない世界」どころか、核の脅威は膨れ上がる一方だ。

核兵器の拡散を防ぐ条約(核拡散防止条約=NPT)の履行状況などを話し合うNPT再検討会議があすから来月下旬までニューヨークの国連本部で開かれる。190もの国々が参加する重要な国際会議だ。

岸田文雄外相も演説を予定し、核兵器のない世界に向けた「広島、長崎の声を伝える」という。唯一の被爆国・日本の願いをしっかり世界に届けてほしい。

だが、5年に1度の同会議は、NPTによって核兵器保有を認められた「核兵器国」(米英仏中露)と、その他の国(非核兵器国)の意見が衝突して紛糾するのが常だ。

2005年の同会議は討議を総括する文書すら採択できなかった。10年の会議は最終文書こそ採択したものの、この5年、核軍縮は後退に後退を重ねたと言っていい。

たとえば米露が11年に新戦略兵器削減条約(新START)を発効させたのは朗報とはいえ、プーチン露大統領は先月、ウクライナ情勢で核兵器を使う準備を命じたことを明かした。核軍縮での米露協力は台無しである。まるで冷戦期だ。

また、前回の最終文書は北朝鮮の核実験(06年と09年)への非難を盛り込んだが、同国は13年にも核実験を行ったほか、核弾頭を小型化して日本や米国を射程に収める核ミサイルの開発も進めているとされる。

今回、日本は北朝鮮を非難する文言を再び最終文書に盛り込もうとしているが、かといって北朝鮮の姿勢が変わるとは考えにくい。北朝鮮への対応は明らかに限界だ。

さらに「イスラエルの核」が、会議に複雑な影を落とす。同国は大量の核弾頭を持つとされるが、保有を認めていない。前回会議は中東非核地帯構想に関する国際会議を12年に開くことで合意したものの、イスラエルが反発して開催には至らなかった。これに対するアラブ諸国の怒りが会議を波乱含みにしている。

中国の核軍拡も懸念される。米露交渉の枠組みを立て直し、中国も組み入れた交渉を行う必要がある。

NPTの空洞化が言われる中、核兵器を持たない国や市民団体が核兵器禁止条約の制定をめざす動きもある。米露などは冷たい態度だが、特権的に核保有を許された国々がNPTの初心に戻り、誠実に核軍縮に努めるのが筋だ。そうでないとNPTは空洞化するだけだろう。

再検討会議を壮大な時間の無駄にしてはならない。核拡散という人類の危機を見据え、解決策を真剣に考える場にしてほしい。

Categories 核廃絶

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