特集ワイド:松田喬和のずばり聞きます 共産党・志位和夫委員長

毎日新聞 2015年10月15日 東京夕刊

「国家のために働けというのが、安倍政権が掲げる『1億総活躍社会』。国家は個人の幸せのために存在するのであって、発想が逆です」と語る志位和夫・共産党委員長=東京都渋谷区の同党本部で
「国家のために働けというのが、安倍政権が掲げる『1億総活躍社会』。国家は個人の幸せのために存在するのであって、発想が逆です」と語る志位和夫・共産党委員長=東京都渋谷区の同党本部で
インタビューをする松田喬和特別顧問
インタビューをする松田喬和特別顧問

 ◇「連合政府」は国民が主人公の一大壮挙

共産党の「国民連合政府」構想は永田町に衝撃を与えた。独自候補擁立の方針を見直し、他野党との選挙協力も呼びかけるが、安全保障関連法反対で盛り上がった世論の「受け皿」になれる成算はあるのか。同党の志位和夫委員長に松田喬和・毎日新聞特別顧問が迫った。【構成・江畑佳明、写真・後藤由耶】

 ◇民主党と合意の可能性、十分にある/党名は大事にしていく

−−国民連合政府構想を発表したのは、安保関連法が成立した9月19日の午後。素早い動きでしたね。

志位氏 あの日未明に参院で採決が強行され、「すぐにやらなきゃ」と。眠い目をこすりながら提案の文章を仕上げました。急いだのは、国民の抗議運動がここまで高揚しているのだから、政党が次の方向をすぐに示すことが、国民の皆さんに対する責任であると考えたからです。

−−改めて狙いを。

志位氏 きっかけは二つありました。一つは国民の声。私自身、国会前の抗議行動に参加して「戦争法(安保関連法)を廃止してほしい」「安倍政権打倒のために野党はまとまれ」という痛切な意見に数多く接しました。もう一つは、今の政治が「非常事態」だとの認識です。立憲主義、平和主義、民主主義、全てが壊されつつある。従来は全選挙区で候補者を擁立する方針でしたが、非常時に同じ対応を続けていたら、国民の皆さんへの責任が果たせない。ここは共産党も変わらなければならないと考え、踏み切りました。

−−毎日新聞の最新の世論調査では「野党は選挙協力すべきだ」が38%、「必要ない」は44%です。

志位氏 それは与党を支持する方も含めた数字でしょう。話し合いは始まったばかりですから、最初の数字としては心強いですね。

−−最大野党の民主党内には、選挙協力に魅力を感じながらも、国民連合政府構想への参加をためらう声があります。

志位氏 戦争法自体は、衆参で廃止を求める勢力が多数を占めれば廃止できます。しかし集団的自衛権の行使を可能にした昨年7月の閣議決定が残っている限り、今後もデタラメな憲法解釈が続くことになる。閣議決定を撤回するためには、それを実行する政府が必要です。

選挙協力に注目が集まっていますが、私たちの提案の一番の要は国民連合政府なんです。「戦争法廃止と立憲主義・民主主義の回復」「それを実行する国民連合政府」という国民的大義を明確に掲げてこそ、自民・公明を打ち破ることができる。選挙協力が本当に力を持つものになるためにも、野党が政権構想で一致することが大事なのです。

−−参院選では1人区が32となり「小選挙区制」の様相が強まりました。確かに与野党対決といっても、野党が結集しない限り歯が立ちません。

志位氏 新聞各社の世論調査では、個々の政策への反対は大きいのに、自民党の支持率は30%を超え、安倍内閣の支持率も4割くらいある。国民の目に、野党の強力な受け皿がまだ見えていないからです。自民党に代わる政権の内容を具体的に示せれば、政党支持率などの状況も変わってくるはずです。

昨年末の衆院選では、沖縄県の4小選挙区で「反基地」を大義に一致した野党候補が全勝しました。我々は解散・総選挙を要求していますが、来夏の参院選が先ならば、32の1人区を全勝するくらいの構えで選挙協力をするつもりです。

−−連合政府のモデルはあるのでしょうか。

志位氏 モデルということではありませんが、1936年にフランスで、「反ファシズム」を掲げた「人民戦線政府」がつくられました。ヒトラーやムソリーニのファシズムの脅威から共和国を守ることから始まった動きですが、人民の政府をつくる際には国民生活を守ることも主題になり、世界初の週40時間労働や有給休暇(バカンス)の導入を決めました。国民連合政府が実現すれば、その先にはさまざまな発展の可能性があると思っているんです。

−−ただ振り返れば、非自民連立政権の細川護熙内閣も民主党政権も、内部の理念の違いを克服できず分裂してしまいました。

志位氏 連合政権となれば確かに、さまざまな困難があるでしょう。ただ国民連合政府には「戦争法廃止・立憲主義回復」という明確な理念があり、かつこの一点での合意を基礎にした暫定的なものであることを最初から明確にした政府です。実際の政権運営では、まず一致点で協力し、不一致点は横に置くことを原則にします。例えば私たちは日米安保条約の解消という目標を持っていますが、連合政府では実行に移しません。「小異」だけでなく「大異」も横に置いて「大同」につこうと。何もかも一致させようとすれば連合政府は実現せず、安倍政権が続くことになる。「欲張らない」ことが大切です。

−−そこまで柔軟に対応するのなら、他党から「抵抗感がある」と言われている党名を変更する考えはありませんか。

志位氏 政党にはそれぞれ理念、基本政策があります。違いがあっても互いに認めながら進もうというのが連合政府ですから、お互いを尊重するのが大事じゃないでしょうか。

−−私が初めて党本部を訪れたのは70年代、宮本顕治氏が率いていた頃で、党本部は貧しきプロレタリアートの政党にふさわしい木造。歩くとミシミシという音がしたものです。

志位氏 そうでしたね。

−−時は移り、今はこのように立派なビルに入っておられます。党名も時代に合わせて変更してもいいのでは?

志位氏 ハハハ。せっかくのお話ですが、今言った通りでありまして……。党への誤解やアレルギーをなくす努力をしながらも、党名は大事にしていく。そこは変わりません。

−−最後にずばりうかがいますが、民主党を口説く勝算はおありですか。

志位氏 先の国会で内閣不信任案を共同提出して共闘したように、戦争法案との闘いを通じて相互の信頼関係がつくられてきていると思います。この信頼関係を大事にして話し合いを続けます。誠意を持って粘り強く話し合っていけば、合意できる可能性は十分にあると思っています。

国民連合政府は国民が主人公となって国を動かす一大壮挙となります。実現すれば、政治への信頼は必ず回復します。

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■人物略歴

 ◇しい・かずお

1954年千葉県生まれ。東大工学部卒。90年に書記局長に抜てきされ、93年衆院選で初当選、8期目。2000年から委員長。クラシック音楽をこよなく愛する一面も。

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