毎日新聞2016年2月10日 東京朝刊
高市早苗総務相が衆院予算委員会で放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。
「再発防止が十分でないなど非常に極端な場合」というが、強制的に放送をやめさせる停波に踏み込んだのは唐突であり、異様である。権力の露骨な威嚇と言わざるを得ない。
「放送が公益を害し、将来に向けて阻止することが必要であり、同一の事業者が同様の事態を繰り返す」
「行政指導しても全く改善されず、繰り返される場合に、何の対応もしないと約束するわけにはいかない」
高市氏は放送法に基づく業務停止命令や電波法による電波停止命令の要件などにもふれた。
他方で、「私が総務相の時に電波を停止することはないが、将来にわたって罰則規定を一切適用しないことまでは担保できない」と述べた。
法律に電波停止の規定はあるが、いま差し迫った問題があるわけではない。放送局に強大な行政権を持つ総務相が、何のために公の場で無用の発言を繰り返すのか。安倍政権の意図を疑われても仕方ないだろう。
電波法76条は、放送法などに違反した際に一定期間電波を止め、従わなければ免許を取り消すことができると規定する。放送法4条は、政治的公平などを番組に求めている。
だが、番組は放送局の自覚と自律において自主的に規制されるべきである。放送法4条は、倫理的な規範というのが従来の解釈だ。この前提を恣意(しい)的に曲げてはいけない。
公平中立を理由に、政府・与党がテレビの報道番組に口を出し、波紋を呼ぶ例がこのところ続いている。
衆院選を控えた2014年11月、自民党は安倍政権の経済政策を街頭で聞いたTBSの報道が偏っていたとして、在京6局に「公平中立」を求める文書を送った。昨年4月には同党の情報通信戦略調査会がNHKとテレビ朝日の番組内容について、両者の幹部を呼んで事情を聴いた。
総務省は、放送法4条を倫理規定から制裁を視野に入れた法的な規定とみなす解釈に変わってきた。安倍晋三首相は昨年11月の衆院予算委で放送法について「単なる倫理規定ではなく法規であって、法規に違反しているのだから担当の官庁が法にのっとって対応するのは当然だ」と語った。
安倍政権の放送法解釈には大きな問題がある。制度上も政治の影響を受けやすい放送局に、政権与党が制裁を視野に入れて公平性を働きかければ圧力と取られかねない。
放送の問題を自主的に解決するため、NHKと民放は放送倫理・番組向上機構(BPO)を設立し、成果をあげてきた。政府は放送法の原則に立ち返り、努力を見守るべきだ。
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