エリートの資産隠し暴いたパナマ文書 ピケティ氏が警鐘

朝日新聞 2016年4月20日

■ピケティコラム@ルモンド

タックスヘイブン(租税回避地)や金融の不透明さに関わる問題が、何年も前から新
聞の1面をにぎわしている。この問題に対する各国政府の声明は自信に満ちたものだ。
だが、残念ながらその行動の実態とはかけ離れている。ルクセンブルク当局が多国籍企
業の租税回避を手助けしていたことが暴露された2014年のルクセンブルク・リーク
で、多国籍企業が子会社を利用して欧州にほとんど税を納めていないことが明るみに出
た。16年の「パナマ文書」が明らかにしたことが何かというと、先進国と発展途上国
の政治・金融エリートたちが行う資産隠しの規模がどれほどのものかということだ。ジ
ャーナリストが自らの任務を果たしているのは喜ばしい。一方で、政府が果たしていな
いのが問題なのだ。08年の金融危機以来、何もなされてこなかった。ある面では事態
は悪化してしまっている。

順を追って見ていこう。欧州では税の引き下げ競争の結果、大企業の利益に対する課
税の税率がこれまでにないレベルになった。例えば英国は課税率を17%まで引き下げ
ようとしている。主要国では先例のない水準だ。しかもバージン諸島や王室属領にある
他のタックスヘイブンを保護したままである。何もしなければ最終的にどの国もアイル
ランドの課税率12%に並ぶだろう。0%になることもありうるし、投資に対する補助
金まで出すはめになるかもしれない。そんなケースがすでに見られている。

一方米国では利益に対して連邦税が課され、税率は35%だ(さらに5~10%の州
税がかかる)。欧州が民間の利権に振り回されるのは、欧州は政治的に細分化されてお
り、強力な公権力が存在しないからなのだ。この袋小路から抜けだすことは可能だ。ユ
ーロ圏のGDP(国内総生産)と人口で75%以上を占めるフランス、ドイツ、イタリ
ア、スペインの4カ国が民主主義と税の公平性に基づいた新条約を結び、大企業への共
通法人税という実効性のある政策を取れば他国もそれにならうほかなくなるはずだ。そ
うしなければ世論が長年求めてきた透明性の確保につながらず、しっぺ返しをうけるこ
とになるかもしれない。

タックスヘイブンに置かれている個人資産は不透明性が非常に高い。08年以降、世
界のあちこちで巨額の財産が経済規模を上回る速度で成長し続けた。その原因の一端は
、他の人々よりも払う税が少なくてすんだことにある。フランスでは13年、予算相が
スイスに隠し口座は持っていないとうそぶき、省内でその事実が発覚する懸念はなかっ
た。ここでもまた、ジャーナリストたちが真実を明らかにしたのだった。

スイスは、各国間で金融資産情報を自動的に交換することに公式に同意した。パナマ
は拒否しているが、この情報交換で将来的に問題が解決されると考えられている。だが
、情報交換は18年になってようやく始まることになっているのに加え、財団などの保
有株には適用されないといった例外まで設けられている。しかもペナルティーは一切設
定されていない。つまり、私たちは「お行儀よくしてください」と頼めば、各国が自発
的に問題を解決してくれる、そんな幻想の中にいまだに生きているのだ。厳格なルール
を順守しない国には、重い貿易制裁と金融制裁を科すということを実行に移さなければ
ならない。ここではっきりさせておこう。どんなわずかな違反に対しても、その都度こ
うした制裁を繰り返し適用していくのだ。もちろんその中にはフランスの親愛なる隣国
スイスやルクセンブルクの違反も含まれるだろうが。こうした繰り返しがシステムの信
頼性を確立し、何十年にもわたって罰を免れてきたことで生み出された、透明性が欠如
した雰囲気から抜け出すことを可能にするだろう。

同時に、金融資産を統一的な台帳に登録するようにしなければならない。欧州のクリ
アストリームや米国の証券預託機関(DTC)などといった金融市場で決済機能を果た
す機関を、公的機関が管理できるようにする。こうした仕組みを支えるため、共通の登
録料を課すことも考えられる。得られた収入は、気候対策などの世界全体に関わる公益
の財源にあてることもできよう。

疑問がまだひとつ残っている。不透明な金融と闘うために、各国政府は08年からず
っとほとんど何もしてこなかった。なぜなのか。簡単に言えば、自ら行動する必要はな
いという幻想の中にいたからだ。中央銀行が十分な貨幣を発行することで、金融システ
ムの完全な崩壊を免れ、世界を存亡の危機に追いやる過ちを避けることができた。その
結果、たしかに景気後退の広がりを抑えることはできた。しかしその過程で、必要不可
欠だった構造改革、行政改革、税制改革をせずにすませてしまった。公的セクターと民
間とが持っている金融資産は全体で、国内総生産(GDP)のおよそ1千%、英国では
2千%にあたる。それに比べれば、主要中央銀行の金融資産の規模は、GDPの10%
から25%に上がったとはいえ小さいままで、必要が生じれば、より増やすことができ
る水準であることは安心材料だろう。

しかしここからわかるのは、とりわけ民間部門のバランスシートが膨張し続けている
ことと、システム全体が極めて脆弱(ぜいじゃく)であるということなのだ。願わくば
「パナマ文書」の教訓に世界が耳をかたむけ、いよいよ金融の不透明さに立ち向かわん
ことを。新たな危機を招かぬうちに。

(〈C〉Le Monde,2016)

(仏ルモンド紙、2016年4月10-11日付、抄訳)

Thomas Piketty 1971年生まれ。パリ経済学校教授。「21世紀
の資本」が世界的ベストセラーに

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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