「第2次朝鮮戦争」から目をそらす韓国人 「狂犬」のお達しも空振りに

「第2次朝鮮戦争」から目をそらす韓国人 「狂犬」のお達しも空振りに

鈴置 高史 日経ビジネス 2017年2月10日(金)

(前回から読む)

米国が「北朝鮮の核武装」阻止に動く。だが、韓国の腰は定まらない。

マティスに反旗の左派系紙

鈴置:「狂犬」(Mad Dog)のあだ名を持つマティス(James Mattis)米国防長官が2月
上旬、韓国と日本を訪問しました。

韓国紙はマティス訪韓をどう評したのですか?

鈴置:在韓米軍へのTHAAD(=サード、地上配備型ミサイル防衛システム)配備に焦点
を当てました。韓国がそれを受け入れるかが米韓同盟の試金石となっているからです(
「『北の核』潰しの覚悟を日韓に質したマティス」参照)。

メディアにより、意見は割れました。左派系紙のハンギョレはTHAAD配備の危うさを
指摘しました。社説「新ミサイル体制のために訪韓したような米国防長官」(2月3日、
日本語版)で以下のように主張しました。

マティス長官は24時間ほどの短い訪韓中にTHAADの配備を押し切ると何度も表明した。
訪韓の最大の目的が「THAAD配備固め」のようにすら感じられる。

このような動きは中国やロシアを刺激して朝鮮半島と北東アジアの安保情勢を悪化させ
、核問題解決策の議論の障害物になりかねない。

マティス長官の今回の歴訪は北朝鮮だけでなく中国にも警告メッセージを送る意味があ
る。トランプ大統領が公言してきた対中国圧迫を本格化させるのに先立って、韓米日の
協力体制を固めようとしているのだ。

我が国は今後韓米日の軍事安保協力強化の求めによって具体化していくこのような動き
に対して、バランス感覚を持って対処する必要がある。

ハンギョレは「日米韓」の軍事協力強化に反対してきました。北朝鮮との融和も唱え
ています。こうした書きっぷりになるのも当然です。

「ずるい」中央日報

配備には賛成するけれど、さりげなく留保条件も付ける「ずるい」社説を書いたのが
中央日報です。「THAAD配備と拡大抑止の強化に漏れがあってはならぬ」(2月3日、韓
国語版)です。

見出しだけ見ると、親中色が強くTHAAD配備に慎重だった中央日報が「狂犬」の訪韓
を受け、宗旨替えしたかと思います。

本文中でも「THAADは北朝鮮の核・ミサイルから国民と財産、米軍の兵力の保護と生
存に必須の防御兵器だ」と主張しました。でも、それに続いてこんなくだりがあるので
す。

配備に反対する国民をもう一度説得し、中国とロシアにも誠意を持って説明することを
政府に望む。

韓国民はともかく、中国とロシアは韓国政府がいくら説得しても応じるはずがありま
せん。米国に対しては「私は配備に賛成しました」とゴマをすり、中ロには「御意向を
尊重するよう政府に要求しました」と弁解する、子供だましの筆法です。

相変わらず「二股」の朝鮮日報

最大手の朝鮮日報は?

鈴置:やはり米中双方にいい顔をする「二股社説」を載せました。2月4日の社説「トラ
ンプ時代にも米韓は利益ではなく『価値の同盟』でなければ」(韓国語版)から引用し
ます。

マティス長官の言葉通り「THAADはひとえに北朝鮮のミサイルの脅威に対する防衛的な
武器」であり「韓国国民と我々(米国)兵力を保護するための措置」だ。

中国がTHAADに憂慮することには留意せねばならぬが、我々を手なずけようとか、韓米
同盟を離間する機会にしようとするのは決して容認しない。

まず、マティス長官の言葉を引用することで中国の怒りを米国にそらそうとしました
。「配備は米国の意向です。文句を言うなら米国に言って下さい」というわけです。

そのうえ「中国の憂慮に留意せねばならぬ」と書いて「あなたに逆らうつもりはあり
ませんから」と、もみ手したのです。

こんな舌先三寸の社説を書いて、もし中国から「だったらお前の言う通り、俺にもち
ゃんと留意して配備を拒否しろ」と言われたら、朝鮮日報はどうするのでしょうか。

マティスもげっそり?

韓国各紙の社説をマティス長官が読んだら、さぞかしげっそりするでしょうね。

鈴置:げっそりしたと思います。韓国は北朝鮮との緊張が高まるたびに米国に「次の米
韓合同軍事演習では、B52爆撃機など戦略兵器を持ち込んで北を脅してくれ」「いっそ
のこと戦略兵器を韓国に配備してくれ」と要求する。

今回も中央日報が社説「韓米国防会談、米国の戦略資産を韓半島に常時循環配備せよ
」(2月3日、日本語版)でそれを主張しました。

でも、韓国は米国にそう要求する一方で、中国に秋波を送る。「米国と協力して北の
核を根絶しよう」と国民に戦争の覚悟を訴えるわけでもない。韓国の言うことを聞いて
戦略兵器を韓国に送ってきた米国からすれば「食い逃げ」されっぱなしです。

「覚悟」を訴えた東亜日報

1紙ぐらいは「覚悟」を呼びかけてもよさそうなものですが。

鈴置:私が見た中では唯一、高まる「第2次朝鮮戦争」の可能性を指摘し、国民に心構
えを説いた社説がありました。東亜日報の「ただならぬトランプの対北圧迫に準備はあ
るか」(2月4日、韓国語版)です。

最近、トランプ政権や米議会では対北先制打撃はもちろん、北朝鮮政権の交代や金正恩
(キム・ジョンウン)の暗殺まで議論されている。

1994年に北の寧辺(ヨンビョン)核施設への空襲の一歩手前まで行ったが、全面戦争勃
発と韓国の被る莫大な被害への憂慮のため、取り止めたことがある。今回も、タカ派一
色のトランプ政権の動きがただならない。

金正恩の予告通りに北朝鮮が大陸間弾道弾(ICBM)の試射を断行した場合、米国が要撃
などの強硬措置に出れば、朝鮮半島情勢がすぐさま、激浪に飲み込まれることもあり得
る。

国が百尺竿頭の危機にあるというのに、政界は大統領選ごっこに血道をあげる。野党に
は、THAAD配備など敏感な懸案でトランプ政権の対北政策と反対の方向に旋回する動き
も見える。一般の国民の安保意識もこれまでと変わらない。

どうせ大国が決める

なぜ、韓国人は「百尺竿頭の危機」を直視しないのでしょうか。

鈴置:「直視してもしょうがない」と思っているからでしょう。仮に「北朝鮮の核施設
を先制攻撃してほしい」と韓国人が頼んでも、米国がすんなり応じてくれるわけでもな
い。反対に「やめてくれ」と頼んでも、自分に必要なら米国は実行する。

1994年の寧辺への攻撃も韓国と相談もなく計画され、韓国の意向とは関係なく取り止
めになりました。当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領は後になって「自分が中止さ
せた」と言い張っていましたが、それを本気で信じる韓国人は少ない。

この問題に限らず、韓国人には「自分の運命は周辺大国が決めるものだ」との諦念の
ようなものがあります。歴史的に「常に大国に決められてきた」からです。

元寇や明治維新のように外敵を追い払った経験を持ち「団結すれば運命は切り拓ける
」と考える日本人とは完全に異なるのです。

「自らの意思で自分の運命を決められない」以上、韓国メディアが厳しい現状の分析
よりも、読者の耳に心地よい話を報じるのは当然です。

マティス訪韓に関しても多くの新聞が「日本に勝った」「やはり韓国は米国に愛され
ている」といった情緒的な分析を載せました。

日本に勝った!

なぜ「日本に勝った」のでしょうか。

鈴置:マティス長官が日本よりも先に韓国を訪問したからです。韓国を「愛する」から
というより、韓国が米中間で「揺れている」ので、米国はまずその姿勢を確かめたかっ
たのだ、と私は想像しますけれど。

国会開催中だった日本が「木・金」ではなく「金・土」の日程を希望したこともある
、と説明する関係者もいます。

今、韓国人は孤独感にさいなまれています。それも「日本に勝った」式の報道を加速
していると思います。

中国からはTHAADで苛められ、日本からは「慰安婦像」で見捨てられた。その結果、
実害も出ています。

資金流出が始まりそうというのに韓国は、大口の通貨スワップを失う可能性が大きく
なったのです(「中国が韓国を『投げ売り』する日」参照)。

朴槿恵(パク・クンヘ)大統領の北京の軍事パレード参観で、米国から白い目で見ら
れていることに、韓国人はようやく気づきました(「掌返しで『朴槿恵の親中』を批判
する韓国紙」参照)。

ことに米国に自国の利益を徹底的に追求するトランプ(Donald Trump)大統領が登場
しました。韓国人はどんなに苛められるかと冷や冷やしていた。

そんな中、米国の国防長官が日本よりも先に韓国を訪問してくれたのです。そこで韓
国各紙は「まだ、捨てられていなかった」「完全に孤立したわけではない」と小躍りし
たわけです。

苦笑する中国

韓国経済新聞の2月5日の社説「堅固な韓米同盟を確認したマティス訪韓」(韓国語版
)から引用します。

主要国の大統領や官僚、さらには有名な芸能人、スポーツ選手もアジアに来る時は日本
から訪問し、次に韓国を訪れるのが通例だ。しかし、マティス国防長官は異なった。ト
ランプ政権が東アジアでどれほどに韓国を重視しているかを示す象徴的な例だった。

国内政治が混乱する中、中国や日本との関係も疎遠になり東アジアで外交的な孤立に陥
った韓国に配慮し、力づけようとしているのではないかと思えるほどだ。

米国にとって「北朝鮮の核」が最も緊急の課題ではありますが、それと「韓国を重視
する」こととは異なります。もし、韓国が対北先制攻撃のお荷物になるのなら、トラン
プ大統領は韓国を見捨てると思います。

韓国人はプラス思考ですね。

鈴置:こんな韓国人を笑いながら見ている国があります。中国です。中国共産党の対外
威嚇用メディア「環球時報」が2月3日の社説「韓国は米国から重視されたというけれど
、幸せにはなれない」(中国語)で、以下のようにマティス訪韓を評しました。

韓国はマティス長官が自分たちの国に最初に来たと、興奮している。北朝鮮の核の脅威
に驚くあまり、韓国は米国を救世主だと見なし、外交の独立性を失った。韓国は独立国
として思考する能力をますますなくした。

米国に頭を撫でられたと大喜びする韓国――。中国は苦笑しています。この分ならも
う少し脅せばまた、こっちの言うことを聞くだろうと考えていると思います。

不透明な米国

では、中国は韓国イジメを強化するのでしょうか。

鈴置:それもするでしょうが、中国にとって韓国はあくまで外交ゲームの「駒」に過ぎ
ません(「米国から『ピエロ役』を押し付けられた朴槿恵」参照)。

中国は小さな「駒」を動かすことよりも、ゲームの相手である米国の出方を研究する
必要に迫られています。

トランプ大統領はいったい何をするのか分からない指導者です。突然の入国制限だけ
ではありません。中国に対しては「1つの中国」という米中の基本的な合意を破る姿勢
をちらつかせながら「北の核」の解決を迫り始めました。

環球時報の英語版「Global Times」が2月3日、マティス長官の訪韓・訪日に関する2
人の中国人学者の意見を載せました。

「Korean Peninsula tensions top the agenda of Mattis Asian tour」です。2人と
も「トランプの不透明さ」を前提に議論を進めています。

朝鮮半島問題の専門家であるCui Zhiying氏は、北朝鮮への米国の先制攻撃の可能性
に言及しました。以下です。

North Korea should stop developing its nuclear power before a possible rise in
tension in the Korean Peninsula, as well as Trump’s preemptive countermeasure
s.

China should continue to deter Pyongyang’s nuclear programs while the Trump ad
ministration should seek to carry out the US-North Korea dialogues in the near
future.

米国が先制攻撃的な手法をとって緊張が高まる前に、北朝鮮は核開発を止めよ。中国
は北朝鮮を抑え込むから、米国は北との話し合いを早急に始めてくれ、との悲鳴に近い
提案です。

判断の早いトランプ

米国は先制攻撃するのか、それとも話し合いに入るのでしょうか。

鈴置:分かりません。今、米国はまさに分岐点に立っています。言えるのは、どちらの
道を選ぶにせよ、トランプ政権は判断に時間をかけないと思われることです。

ここがオバマ(Barack Obama)前政権と完全に異なる点です。理由は2つ。トランプ
大統領の性急な性格と、北の核武装が目前に迫ったという冷厳な事実からです。

(次回に続く)

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/020700091/?P=1

MLホームページ: http://www.freeml.com/uniting-peace

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