ローマ=山尾有紀恵、ドイツ西部ケルン=喜田尚 其山史晃、木村司
朝日新聞 2017年8月17日
米軍機オスプレイの墜落や江崎鉄磨・沖縄北方相の発言で、日米地位協定に目が向け
られている。日本では基地の管理権は米軍に委ねられ、運用について日本政府は制限で
きる立場にない。同じ大戦の敗戦国であるイタリアやドイツは、管理権を自国で持って
いたり、軍用機の騒音規制が可能だったりする。国内の関係自治体は長年にわたり、協
定の改定を求めている。
北大西洋条約機構(NATO)は、同盟国の駐留軍の法的地位について、共通のNA
TO軍地位協定で定める。
国内に六つの主要米軍基地を抱えるイタリアは、基地の運用・管理に関する米国との
二国間合意(1954年締結、95年改定)を結んでいる。
国内の米軍基地の管理権はイタリアにあり、軍用機の発着数や時刻はイタリア軍司令
官が責任を持つ。飛行訓練には国内法が適用され、重要な軍事行動にはイタリア政府の
承認が必要とされる。イタリア軍元統合参謀総長のビンチェンゾ・カンポリーニ氏は「
米軍とイタリア軍は明白な相互関係にある。イタリア当局の管理が及ばない状況はない
」と話す。
1998年に低空飛行訓練中の米軍機がロープウェーのケーブルを切断し、スキー客
ら20人が死亡した事故後もイタリア当局は直ちに米軍と協議し、米軍機の低空飛行を
厳しく制限した。
イタリアの米軍に対する発言力の強さの背景には、第2次大戦で連合軍に敗れた一方
で、ナチス・ドイツ軍に占領された北部のレジスタンス勢力が連合軍の協力を得て蜂起
し、自力解放を果たした歴史があるという。その後、安全保障上互恵的な関係が続いた
。
ドイツでは、NATO軍地位協定を補う形で、ドイツ国内の駐留6カ国との補足協定
(ボン補足協定)で基地使用が定められている。冷戦時代、米軍の危険な超低空飛行訓
練などが問題化。90年の東西ドイツ統一直後から、改定への取り組みが進んだ。
2年の交渉を経て、基地外での訓練はドイツ当局の承認が必要となり、危険物を輸送
する場合も含め駐留軍の陸海水路の移動のすべてにドイツの交通法規が適用されるよう
に改定された。駐留軍機は騒音を規制する国内法にも縛られる。
ドイツ外務省法制局長として改定交渉を率いたトノ・アイテル元国連大使は「冷戦終
結後も我々は米軍を必要としており、交渉では妥協も必要だったが、統一を達成した今
こそ完全な主権を得るべきだとの考えには(米国からも)大きな異論はなかった」と振
り返る。(ローマ=山尾有紀恵、ドイツ西部ケルン=喜田尚)
■日米地位協定、本体は一度も改定されず
「米軍基地をめぐる諸問題を解決するためには、日米地位協定の見直しは避けて通れ
ない」。沖縄県の翁長雄志知事は14日、小野寺五典防衛相との会談で、協定改定など
を求める要望書を手渡した。
地位協定は、日本国内での米軍の権限などを定めた協定で、1960年に結ばれた。
米国が米軍の施設内で運営や管理に必要なすべての措置をとることができると規定し、
軍人や軍属が公務中に起こした事件で米側に優先的な裁判権を認めている。環境調査の
ための自治体の立ち入りを認める補足協定や軍属の範囲を明確にする補足協定が策定さ
れたが、本体は一度も改定されていない。
今月の豪州でのオスプレイ墜落事故後、小野寺氏が米側に飛行自粛を求めたが、米軍
は翌日に沖縄で飛行させた。日本政府はその後、飛行再開を容認し、北海道での自衛隊
との共同訓練にも18日からオスプレイが参加する。各地で起こされている米軍機の騒
音をめぐる訴訟では、騒音が違法と認定されながら「国に権限がない」などとして飛行
差し止めは認められていない。
米軍基地を抱える15都道府県でつくる渉外知事会は、沖縄県で米兵による少女暴行
事件が起きた1995年から、国に改定を求め続けている。今年も2日、「米軍基地に
起因する環境問題、事件・事故を抜本的に解決するには地位協定の改定は避けて通れな
い」などとする要望書を外務省や防衛省に提出した。市街地や夜間、休日などの飛行制
限や最低安全高度を定める国内法令の適用▽日本に第一次裁判権がある場合、日本の容
疑者引き渡し要請に応ずる▽基地外での事故現場での統制は日本当局の主導で実施する
、など15項目の改定要求ポイントを挙げた。
協定の本質的な見直しがなされないことについて、元外務省国際情報局長の孫崎享氏
は「多くの国民に『地位協定は沖縄など基地を抱える地域の問題』という意識が染みつ
いている」と指摘。「日本政府内で『外交とは米国との間に波風を立てないこと』とい
う傾向が強まるなか、米側が嫌がる地位協定の改定はもってのほかという状態になって
いる。国民の薄い当事者意識は政府にとって都合がよく、本来主張できることさえして
いない。まずは国民が、同じ同盟国であっても米軍基地の受け入れ方は国ごとで違って
いるということを知るべきではないか」と話す。(其山史晃、木村司)
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