為政者に“同調文化”を利用されていないか 三浦まり・上智大教授

令和フィーバー考

為政者に“同調文化”を利用されていないか 三浦まり・上智大教授

新元号「令和」を知らせる号外を手に取る人たち=東京都港区で2019年4月1日、尾籠章裕撮影

 「レイワ・ワン!」。5月26日夕、来日したトランプ米大統領が両国国技館での表彰式で高らかに声をあげた。すると、会場からは万雷の拍手がわき起こった。「令和フィーバーは終わっていないのではないか」。記者はそう感じた。こんな疑問を抱え、上智大法学部の三浦まり教授(政治学)を訪ねた。三浦さんは記者の問いにうなずき、さらにこう憂えた。「民主主義が危機にあると思います」。危機とは穏やかではないが一体――。【江畑佳明/統合デジタル取材センター】

「異論を唱えにくい社会」

 三浦さんはあるニュースに心を痛めていた。2017年12月、近畿大の学生だった男性(当時20歳)がサークルの会合で一気飲みするなどして、急性アルコール中毒になり死亡した。大阪府警は今年5月27日、救急車を呼ぶなどの措置を取らずに死なせたとして、当時のメンバーら12人を保護責任者遺棄致死の疑いで書類送検した。男性の両親は元メンバーらを刑事告訴しており、「息子は酒があまり強くないにもかかわらず、はやしたてられた」と主張していた。三浦さんは「もし飲酒を断れば、場の盛り上がりに水を差してしまう。亡くなった男性もそんな状況で、嫌だと言い出せなかったのかもしれません」とおもんぱかった。

 なぜ、この事件に言及したのか。三浦さんは「日本社会では、盛り上がりや一体感を重視する場が設定されると、同調が当然とされ、個人が異論を言ったり、抵抗したりするのは非常に難しくなるからです。もし異論を口にすれば、『今言わなくてもいいじゃない』と袖にされてしまう。これは日本の文化的規範と呼べると思います」と説明する。

 そしてハッとするようなことを口にした。「安倍政権はこの文化的規範を利用し、令和フィーバーという祝賀ムードを作り出しました」

大相撲夏場所観戦のため、両国国技館を訪れ、観客の声援に応えるトランプ米大統領(中央)=東京都墨田区の両国国技館で2019年5月26日、小川昌宏撮影

改元後、内閣支持率は上昇

 三浦さんが続けた。「まず新元号への移行を5月1日としたのは『絶妙のタイミング』でした」と指摘。元日では新春ムードとかぶるし、4月1日は新年度の開始日のため国民は忙しく、ともに令和フィーバーのお祭り騒ぎにはなりづらい。「5月1日は、ゴールデンウイークの長期休暇中で、レジャー気分との相乗効果がありました」という。

 さらに4月1日の新元号発表時には、官邸がインスタグラムやツイッターなどのSNSを駆使して実況中継し、安倍晋三首相自らが令和の由来を公表するなどの演出で改元ムードを盛り上げた。「皇室の人気、新元号を利用し、政権浮揚につなげました」と三浦さんは分析する。

 その結果は、内閣支持率アップに表れた。毎日新聞が5月18、19日に行った世論調査では、安倍内閣の支持率は前回4月の調査から2ポイント増えて43%。不支持率は6ポイント減り、31%。支持が不支持に10ポイント以上の差をつけたのは、18年2月の調査以来だった。今夏の参院選に向けて与党にとっては好材料だし、「支持率の高いうちに」と、衆参同日選がささやかれる一因にもなっている。

政権は「実験」に成功したのか

 三浦さんは「安倍政権は大きな実験に成功しました」という。実験??

 安倍政権は15年9月の安保関連法成立などの際に支持率を落としたが、「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、各国首脳と会談を続けるなどわかりやすい成果を強調し、一定支持率が回復した面がある。しかし、現在は、ロシアとの北方領土交渉や北朝鮮との拉致問題などでいずれも進展がみられず、外交カードが支持率上昇につながらない。「そこで実験したのが、改元を大々的にアピールしてお祭り騒ぎを作り出すことでした」。三浦さんは「個々の政策は支持されていなくても、国民が喜ぶようなイベントを巧みに演出すれば、『面倒なことを言う人』が排除される空気が出来上がり、支持率アップにつながることが証明されました」。

 そして冒頭の「民主主義の危機」の状態になりつつあるという。「政権は社会を浮ついたムードにすることによって、冷静な議論をする判断力を国民から奪っています。盛り上がりを演出することで、異論を挟みにくい雰囲気を醸成する。これが統治の技術として実践されているのだと思います」

衆院予算委員会の野田聖子委員長(左端)に委員会開催を求めて申し入れする逢坂誠二野党筆頭理事(左から2人目)ら=国会内で2019年5月30日、川田雅浩撮影

予算委が長く開かれていない問題点

 さらに三浦さんは、現在開会中の国会において、予算委員会が長く開かれていない状態を問題視。「民主主義の危機に拍車をかけています」と批判する。

 実際、衆院では3月1日、参院では3月27日を最後に開催されていない。野党の求めに対し与党が「必要ない」と拒んでいるためだ。三浦さんは「予算委員会は行政をチェックする場。統計不正問題や下関北九州道路への忖度(そんたく)疑惑など、議論すべき問題が山積しています。にもかかわらず開かれないのは、与党がその機能を放棄したに等しい」

 そして、新聞などマスコミにも苦言を呈した。「改元の話題は何度も1面で報じられていますが、予算委員会のほうは大きくは取り上げられていません。国会が行政監視機能を果たせていないことは、重要なニュースではないのでしょうか?」

来年の東京五輪でも「フィーバー」利用?

 トランプ大統領は令和初の国賓として来日した。安倍首相はトランプ氏との蜜月関係を強調し、トランプ氏も祝賀ムードの盛り上げに一役買った。今秋には天皇陛下の即位パレードが予定されており、祝賀ムードは続く。また「令和初○○」という言葉もしばらく散見されるだろう。令和フィーバーの終わりが見えず、冷静に議論をする空気は希薄なままなのかもしれない。

 「安倍政権は来年の東京五輪も今回の令和フィーバーと同様、最大限利用するでしょう。そして『新しい時代に新しい憲法を!』といったスローガンで改憲に突き進む姿が目に浮かびます。新元号と改憲は関係ないのに……」と三浦さんはため息をついた。

 では、フィーバーを終わらせるにはどうすればいいのだろう。三浦さんは「個人の日常や生活に根ざした問題を安心して語ることのできる『場』をもっと作っていく必要があるでしょう。マスコミがきちんと報じていないと感じたときは、マスコミに意見を届ける責任が市民にはあります」。

みうら・まり

上智大教授の三浦まりさん=東京都千代田区で2018年6月11日、根岸基弘撮影
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