「政権取りにいく」れいわ・山本太郎代表の戦略 「生活底上げ」旗印に結集なるか

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「政権取りにいく」れいわ・山本太郎代表の戦略 「生活底上げ」旗印に結集なるか

テレビ出演を終え、次の目的地へ向かうれいわ新選組の山本太郎代表=東京・六本木で2019年7月25日、奥村隆撮影

 盛り上がらなかったと総括される参院選だが、この男の周りは熱かった。れいわ新選組を率いる山本太郎代表(44)の街頭演説やインターネットでの発言に多くの有権者は注目した。自身の議席を失ったが、れいわは2議席を獲得。「次の衆院選で政権を取りにいく」と意気揚々だ。その戦略は荒唐無稽(むけい)なのか。【奥村隆】

 真夏の夢で終わらなかった。

 れいわは、比例代表で難病と重度障害の当事者を国政に送り出した。山本氏(比例代表)の得票数は約99万票と落選者の過去最高を記録。政党要件を満たすことにも成功した。山本氏が一人でれいわを設立した4月、多くの国会議員は「単なるパフォーマンスだろう」と冷ややかに見ていたのにだ。選挙後は野党再編の鍵を握る、との見方さえある。

 政界をかき回しそうなれいわと、かつて38年ぶりに政権交代を成し遂げた日本新党の姿をダブらせるのは、山田正彦元農相だ。れいわの応援演説にも立った。「れいわは既成政党に頼らず『何とかして世の中を変えたい』という有権者の気持ちに応えました。もしかしたら政権交代の起爆力になるかもしれません」

 日本新党は1992年5月に元熊本県知事の細川護熙氏が旗揚げ。結党2カ月後の参院選で4人が当選。翌年の衆院選では35議席を獲得し、非自民勢力で連立政権を発足させた。この選挙で初当選した山田さんは政権交代の熱気を永田町で感じたからこそ、山本氏の動向から目が離せない。

 れいわの勢いが全国に波及すると仮定し、かつ衆参の選挙制度を考慮しない単純計算で次の衆院選を占ってみた。今回の参院選で、れいわが唯一、選挙区候補を擁立した東京では比例の得票率は7・95%。この数字に衆院の定数(465)を掛けると議席数は37に。もちろん乱暴な数字の出し方だが、今の「れいわパワー」が拡大していけばひょっとすると--。山田さんは語る。「れいわは政権交代の可能性を示した。単独政権は無理でも、野党で連立を組む方向でいけば面白いことになるのでは」

 れいわが支持を得た要因の一つは「代弁者でなく当事者を国政の場に」というモットーを徹底した点にある。

 当選した舩後靖彦氏は難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者。山本氏が作家の雨宮処凛さんと「当事者を国会に送り出したい」と協議する中で、日本ALS協会関係者から紹介された。もう一人の当選者、木村英子氏は3年前に山本氏の集会に初参加し「障害者政策をぜひ入れてほしい」と発言。山本氏が「約束します」と即答したことから交流が始まった。そのほかの候補者も、元東京電力社員▽貧困に直面するシングルマザー▽閉店した元コンビニオーナー--といったさまざまな「当事者」の計10人が参院選を戦った。

れいわ新選組の演説会で演奏するうじきつよしさん=東京・新橋で2019年7月19日、奥村隆撮影

 街頭演説会では、著名人が次々に応援のマイクを握った。「子供ばんど」ボーカルで俳優のうじきつよしさんもその一人。選挙戦最終日の20日には東京・新宿の演説会場で、ヒット曲「たどりついたらいつも雨ふり」を歌ったが、吉田拓郎さん作詞の歌詞が大幅に変わっていた。

 ♪人の言葉が右の耳から左の耳へと通りすぎる だから、ちっちゃな正義の声をみんなで育てよう 奥ゆかしく黙ってたら、ゲスなやつらのやりたい放題

 うじきさんに応援する理由を聞くと「僕なんかバンドマンでアウトロー(無法者)を気取っていたんですけど、ロー(法律)のほうが完全にアウトになっちゃったんで」。低賃金の非正規雇用が合法的に増やされ、消費税増税が決まり、日本が攻撃されていなくても自衛隊が海外で戦う安全保障法制が数の力で押し切られて成立した。こうした政治の動きに対し、自分なりに考えたという。「間違っていることを間違っていると言うのは当たり前。芸能人が政治的発言をするのが是か非かを気にすること自体、かっこ悪い。ここに来たみんなが、れいわ新選組の11人目のメンバーなんです」

 街頭演説では、女優の木内みどりさん、落語家の立川談四楼さん、元文部科学次官の前川喜平さん、脳科学者の茂木健一郎さんらの姿もあった。ツイッターでは、思想家の内田樹さん、映画監督の岩井俊二さん、作家の室井佑月さん、弁護士の宇都宮健児さんらが支持を表明した。

野党票の争奪に関心なし

 山本氏は政権獲得を目指すと表明したが、それには衆院で最低でも過半数(233議席)が必要だ。「次の衆院選では100人規模で候補者を擁立したい」と発言する山本氏に、野党の中からは「政権批判票の奪い合いになりはしないか」(立憲民主党関係者)と警戒感が広がる。どんな戦略を描いているのか。25日、テレビ朝日での出演を終えた山本氏を直撃した。

 --政権奪取を目指す理由は?

 山本氏 20年以上のデフレを生み出してきた責任の大部分は自民党にある。今回の結果を見て「有権者は現状維持を求めた」と言う人がいますが、自民党なら現状維持できるなんてとんでもない。人々の暮らしはどんどん貧しくなっている。それを考えると自民党政治にピリオドを打たなきゃしょうがない。

 --野党との票の奪い合いを危惧する声もあります。

 山本氏 ただでさえ少ない野党のシェアを奪いにいくつもりは毛頭ありません。もっと大きな無党派層をつかみ、与党側の票を削りたい。

 --れいわ単独での政権獲得は難しいと見られます。

 山本氏 私たちだけでやっていくのでは時間がかかる。野党間の協議を拒むものではありません。人々の生活を底上げする経済政策を掲げて、私たちと共に政権交代を目指すなら全力を尽くしたい。

 --れいわは「消費税廃止」を公約に掲げています。次の衆院選では、消費税の「減税」が共闘の条件になると?

 山本氏 共闘の第一歩として「消費税は5%に」を掲げて一緒に戦っていきたい。先々、本当に人々の生活を引き上げたいという信念を持った集合体ができていく可能性があると思います。

 山本氏は「有権者が政党を育てていくんだ」という意識が大きくなれば、野党共闘、さらにその先の政権奪取は可能だと捉えているようだ。

 れいわの課題とは何か。野党の動向に詳しいジャーナリストの高野孟さんは「アベノミクスが大失敗だったことが明らかな以上、税と社会保障のプランを具体的にきちんと描けるかどうかに懸かっている」と指摘する。消費税廃止の実現性については「高度経済成長期とは産業構造が変化しているので、所得税や法人税中心の税制に戻すのは、旧民主党系の政党の賛同を得られるかどうか」と疑問を抱く。その一方で、労働組合や団体の組織力に頼らないれいわの選挙手法を評価する。「集団の力に頼る時代ではありません。個人に訴えかけるのが正解です」

 山本氏は参院選で「当事者」を主役にする戦略で成果を収めた。有権者が当事者意識をより強固にした時、政界の地殻変動が始まるのかもしれない。

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