菅氏が菅氏に提言 「総理で一番大事なことを教えます」(菅直人)

菅氏が菅氏に提言 「総理で一番大事なことを教えます」(菅直人)

  

飯塚大和dot.
立憲民主党の菅直人元首相(撮影/飯塚大和)

立憲民主党の菅直人元首相(撮影/飯塚大和)

参院予算委での、菅直人元首相と東電の清水正孝社長(当時)=2011年4月(C)朝日新聞社

参院予算委での、菅直人元首相と東電の清水正孝社長(当時)=2011年4月(C)朝日新聞社

福島の避難所を訪問する首相時代の菅直人氏=2011年4月(C)朝日新聞社

福島の避難所を訪問する首相時代の菅直人氏=2011年4月(C)朝日新聞社

 安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選が8日に告示された。3候補が出馬しているが、党内の5派閥が菅義偉官房長官の支持を表明しており、圧倒的に有利な情勢だ。菅氏が注目を浴びる中、中国では「菅直人内閣復活か?」と混同する市民がいるとも伝えられる。名字の漢字が同じという縁がある2人だが、首相の“先輩”として立憲民主党最高顧問の菅(カン)氏は菅(スガ)氏に何を思うのか。話を聞いた。

【写真】厳しい表情で首相時代の菅直人氏に詰め寄る原発避難者

*  *  *
――自民党新総裁の最有力候補である菅(スガ)氏について、どんな印象を持っていますか。中央政界入りは菅(カン)さんの方がかなり早いですが、年齢は2歳差です。これまで接点はありましたか。

 私は比較的お酒が好きで、多くの自民党の方とも会合などで交流してきましたが、菅(スガ)さんとは、個人的なレベルではほとんど交流がありませんでした。菅(スガ)と菅(カン)って漢字が同じものですから、名前を話題にして会話を交わしたことはありますが、政治的な深い話はほとんどしてきませんでした。菅(スガ)さんは、個人としての能力は認められていますが、総理大臣になるには仲間が要る。しかし彼は、仲間をつくることを一切やってこなかった。なので、彼が総理になれそうなのは、ほぼ100%、二階(俊博・自民党幹事長)さんの仕掛けが成功したに過ぎません。二階さんなくして、こんな政局はまったく起こっていなかったはずです。

――菅(スガ)氏は、総裁選で安倍政権の継承を掲げています。菅(スガ)政権が誕生したら、今後の日本はどうなるとお考えですか。

 菅(スガ)さんは、7年8カ月もの間、安倍総理の官房長官として、ほぼすべての政策に関わってきたわけです。私も総理をやりましたから、官房長官がどういう役目だったのかはよくわかります。官房長官というのは総理に入る情報は、ほぼすべて共有します。森友・加計学園問題では財務相の公文書改ざんを安倍総理自らが主導していたという疑惑がありますが、それを一番近いところで見ていた官房長官が、少なくとも総理を止めた形跡はまったく見られません。菅(スガ)さん本人も何も発言していない。これでは、安倍総理と一緒になって公文書改ざんを進めていたと疑われても仕方ありません。

 7年8カ月の安倍政権は、あまりにもひどいものでした。菅(スガ)さんは安倍総理のいいところは踏襲して、悪いところは改善していくものかと思ったら、改善点は一言も口にしない。その一方で、報じられるのは、秋田県から上京した後の苦労話ばかり。政策として何を引き継ぎ、何を改めて、何をやろうとしているのかがまったくみえてきません。

 菅(スガ)さんに安倍政権時代の政治を変える力がないのであれば、野党であるわれわれがやるしかない。ちょうどいいタイミングで野党の再編ができました。新しい野党の党首と菅(スガ)総理をトップとした政権を争う選挙がそう遠くない時期にやってくるでしょう。野党にとってはチャンスだと思っています。

――菅(カン)さんの首相在任時にに起こった東日本大震災、福島第一原発事故と、現在起こっている新型コロナウイルスの感染拡大は、国家の危機という点では共通しています。国家の危機におけるリーダーの役割とは何でしょうか。

 危機事態における総理大臣と官房長官の役目は、専門家の意見を聞きながら、実態はどうなっているのかを正確に把握し、どう対策を打つかを「判断」することです。安倍さんと菅さんは感染症の専門家ではないですし、私も原発の専門家ではありません。だから、まずは専門家の話をちゃんと聞く必要があります。ただ、そのうえで、何を最優先にすべきかという最終的判断は、総理がするしかないのです。危機が起きれば、あらゆる役所を動かさなければいけない。場合によってはあらゆる予算を付け替える必要も出てくる。その判断の最終的なトップが総理であり、それを最も近いところで支えるのが官房長官です。

 私にとって一番の危機は、2011年の3月15日でした。東電の清水正孝社長(当時)が「残っている職員をイチエフから撤退させたい」と言ってきたが、それをされてしまうと、福島第一原発の6基が全くの手つかずになり、放射能がどんどん漏れてしまうことになる。「ここはとにかく命をかけてでもやってもらいたい」。私は東電の社長だけではなく、多くの職員がいる前でそう言いました。

 普通だったら、こんなこと、わざわざ総理が口を挟むことではありません。東電は民間企業であり、原発にいるのは会社の社員なのですから。しかし、あの時点では、もう1号機から3号機までダウンして、どんどん放射能が漏れ始めた危険な状況でした。イチエフから全員が撤退すれば、半径250キロ圏内の住人は全員避難しなければならなくなる。東京も含めて、何十年、下手したら50~60年も人が住めない状況になるという最悪のシナリオも考えられました。そうしたぎりぎりの局面での判断は、総理がやるしかない。それが判断できない人は、総理大臣としての資格はないのです。

――では、コロナ禍における安倍首相の対応をみて、その資質はあったと思いますか。また菅(スガ)氏が首相指名された場合、この重責を担うことはできるとお考えですか。

 安倍さんが、コロナに関して的確な判断をしてきたとはまったく思いません。安倍さんが判断ができないのは、彼をサポートする官房長官が、十分なサポートができていないことも一つの原因だとみています。

 安倍総理は学校の一斉休校など、あまり本質とは関係のないところではトップダウンで判断をして、PCR検査の拡大など大切な施策では、判断を遅らせました。検査体制を拡充するには、さまざまな医療機関を動かさなければいけませんが、医療機関も国立大学病院なら文科省管轄といったように、省のをまたぐこともある。各大臣は自分の管轄は動かせても、すべてを集約できるのは総理しかいません。すべての省庁を動かして、もっと早くPCR検査を増やしていれば。初期対応も変わったはずです。それが今になってもまだもたついているのだから、リーダーシップを発揮できているとは到底言えません。

 もっといえば、安倍さんは初期の段階で、ダイヤモンドプリンセス号の中にいた感染者を、電車で帰すという大きなミスをしたわけです。初期段階から判断を間違っていたと言わざるを得えません。安倍政権はコロナ対応において、明らかに間違った判断をした。そこは、次の総理は変えていかなければならないはずです。しかし、それを「同じでいい」と菅(スガ)さんは肯定してしまう。総理の資質として、問題があることは明らかです。(取材・文=AERAdot.編集部・飯塚大和)

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