感染爆発: 病床不足:制御不能:医療崩壊

基礎疾患なく、軽症で自宅療養中だった一人暮らしの30代男性が死亡

このままでは自宅で殺される 感染爆発で「災害に近い状況」

COVOD-19  新型コロナウイルス感染症   山岡淳一郎 「週刊金曜日」2021年8月20日

基礎疾患なく、軽症で自宅療養中だった一人暮らしの30代男性が死亡

「地域療養導入にはマンパワー不足」

東京都をはじめ、日本各地でコロナ第5波が猛威を振るっている。
病床が逼迫し、小池都知事が「重症者も増えている。これは災害級だ」
と言うように、入院できず自宅療養中に亡くなる例も報告された。

やまおか じゅんいちろう ノンフィクション作家。
著書に「ゴッドドクター徳田虎雄」(小学館文庫)、「ドキュメント感染症利権」(ちくま新書)、
「後藤新平 日本の羅針盤となった男」(草思社文庫)ほか多数。

救急車のサイレンが響き渡る。
東京都は8月11日、新型コロナウイルスに感染し、自宅療養中だった一人暮らしの
30代男性が亡くなったことを公表した。
男性に基礎疾患はなく、微熱が続くも軽症とされ、自宅にいた。
保健所は男性の健康観察をしていたが、急変し、死亡したという。

医療が崩壊しつつある。
いまや「災害に近い状況」だ。
都の病床データは当てにならず、12日現在、コロナ感染者の入院3668人に対し、自宅療養
2万726人、受け入れ病院やホテルが決まらず、入院・療養等調整中の自宅待機が1万1782人。
じつに3万2000人以上が症状の急変におびえながら自宅で不安な日々を過ごしている。
重症者も過去最高の268人(8月16日現在)に増えた。

・肺炎発症、緊急の帝王切開

東京都江東区の保健師は、現状を次のように語る。

「38度以上の高熱が出ていても重大な基礎疾患がなければ、都の入院調整本部を介した入院は困難です。
中等症の患者さんが自宅療養を強いられています。
妊婦さんが高熱と咳が止まらず、発症から3日目にやっと大学病院に入れたけれど、
肺炎を発症して緊急の帝王切開で出産しました。
家庭内感染を防ぐにはホテルの宿泊療養が不可欠です。
でも7月27日から宿泊療養の対象は65歳未満から30歳以下に限定されました。
五輪でホテルの部屋が塞がったそうです。
自宅療養の健康観察で私たちは土日も出勤していますが、もうへとへとです」

これまでも昨年末から年初の第3波の首都圏、5月の連休を挟んだ第4波の関西圏で、
自宅療養中の患者が亡くなる医療崩壊は起きた。
しかしながら、今回の第5波は過去に比べて感染規模が非常に大きく、20代から50代の
働き盛りの世代を直撃しているところに独特の難しさがある。
大学病院で100人以上のコロナ患者を診てきた集中治療専門医が指摘する。

「若ければ重症化しにくいと言われますが、都の重症者のうち、約7割が50代以下。
肥満や糖尿病などの基礎疾患がある人が多い。
高齢者のワクチン接種が普及するまで、重症化して亡くなる人は80代以上が圧倒的に多かった。
正直言って、人工呼吸器やエクモ(体外式膜型人工肺)を装着した延命治療を望まない方も少なくない。
しかし、今回は現役世代の重症者ですから、病院側も使えるものは全部使って治そうとする。
実際、若いので致死率は低いけれど、後遺症は残るし、大変ですよ。
このままICU(集中治療室)が満杯になったら大ごとになります」

重症病床が限界に達したら、中等症で悪化する患者の行き場がなくなる。
集中治療専門医は語る。

「中等症で酸素投与が必要な患者さんを自宅で診るのは難しい。
24時間、血中の酸素飽和度や呼吸数、脈拍数、体温などを監視し、ステロイドを投与して、
肺炎の画像検査、、、無理でしょう。
自宅に留め置いたら命を落とす。
何としても病床を増やさねば。
それと自宅療養の軽症の患者さんを悪化させないようにケアすること。
重症化してからでは遅い。
軽症を悪化させないことが大切です」

発症時の「初期対応」がますます重要になったというわけだ。

・現場無視して基準変更

あらためて発症から医療機関にかかるまでの流れをおさらいしておこう。
新型コロナ感染症は感染症法で2類相当の指定感染症とされているので、通常の病気とは違い、
保健所が患者の対応に当たる。

コロナと疑われる体調異変が起きた人は、かかりつけの診療所などにまず電話で相談する。
その診療所が「発熱外来」を設けていたら予約してPCR検査を受ける。
もしくは別の発熱外来のある医療機関を紹介してもらい受診する。

検査の結果が陽性なら、医療機関から保健所に「発生届」が出され、感染者は保健所の管理下に入る。
保健所は感染者への積極的疫学調査で状況を聞き取り、軽症・無症状なら自宅、もしくはホテル宿泊療養、
中等症以上なら都道府県の調整本部に入院先の紹介を求め、患者の搬送を手配する。

このように発熱外来でPCR検査を行なう診療所は、保健所に発生届を出した時点で、
その患者との関係は切れる。
一方、患者を委ねられた保健所は、感染者の急増で疫学調査はじめ多くの業務が滞り、
前述の江東区の保健師のように「へとへと」に衰耗している。
こうした感染症法上のシステムが破綻しかけているのである。

ところが、政府は8月2日、現場の疲弊を無視するかのように、入院は重症患者と重症化リスクの高い患者
に限定すると基準を変えた。
中等症で自宅療養か!
と与党内からも大反発がわき起こり、間もなく、田村憲久厚生労働相は「中等症は原則入院」
と修正する。
政治家は「言葉遊び」に興じるが、現場はたまったものではない。

・患者が家族と雑魚寝状態

神奈川県でも感染が急拡大中だ。
川崎医療生活協同組合理事長で協同ふじさきクリニックの桑島政臣署長は、政府の対応に憤る。

「多くの患者さんが在宅で困っている。
それなのに政府の重鎮は中等症も自宅でいいんだ、開業医が診ろ、と押し付けてきた。
頭にきました。
修正は当然です。
とはいえ、現実に家庭内感染で患者さんが激増している。
うちは発熱外来がありますが、PCR検査した人の5、6割が陽性です。
保健所がパンク状態なので、患者さんは何の助けもないまま1日、2日と過ごさなきゃいけない。
われわれも責任を感じて、往診していいですか、薬をほしがっているので届けていいですか、
と保健所に許可をもらって動いていましたが、もうどんどん行ってください、
と保健所は言うようになってきました」

協同ふじさきクリニックは川崎市の下町にある。
先日、内科医が自宅療養中の患者を訪ねた。
夫妻と子どもの家族4人が狭い部屋に雑魚寝状態で生活している。
最初に夫が陽性になり、ほかの家族のうち1人は陰性だったが、全員が感染するのは時間の問題だった。

「家庭内隔離ができない環境で暮らしている方々は、瞬く間に家族全員感染します。
隔離できる受け皿が必要です。
これまでは保健所に入院先を任せてきましたが、今後は私たちも電話で患者さんの状態を聞き、
重症化しそうだったら入院先を交渉して決めなくてはいけない。
そういうことが目前に迫ってきています」

ただ、一足飛びに自宅療養の往診と健康観察、入院先の手配ができるようになるかというと、
そう簡単ではない。

じつは神奈川県では、病床の逼迫を予想してかなり前から「地域療養モデル」
という事業をスタートさせている。
これは、自宅療養者のうち悪化リスクがある人、悪化が疑われる人を対象に、地域の訪問看護ステーションの
看護師が毎日、電話で健康観察を行ない、必要に応じて自宅訪問して対面で症状を確認。
24時間電話相談窓口を開設する事業だ。

地域療養モデルに参加する地元医師会の医師は、看護師からの相談を受け、オンライン診療や検査を行ない、
入院が必要と判断したらその調整を行なう。
地域での効果的な患者サポートを企図しており、すでに藤沢市で先行実施、
鎌倉、横須賀、平塚、三浦、厚木、、、と各市へと拡がりつつある。

・神奈川では入院基準導入

神奈川県では地域療養モデルに先立ち、昨年12月には全感染者への「入院優先度判断スコア」
を導入している。
年齢や妊娠の有無、基礎疾患、CTの肺炎像、血中酸素飽和度などの項目ごとにスコア(点数)をつける。
スコア3以上が地域療養モデルの見守り対象となり、5以上が入院と判断される。

制度設計を主導した神奈川県の幹部は、判断目安になる入院基準の必要性をこう語る。

「個々の現場に判断を委ねると、大混乱が起きます。
普通の病気と違って、コロナでは最初に発熱外来で患者さんを診る医師、
入院先で受け入れる医師、それぞれに看護師もいて、その間に保健所の保健師、
医師資格のある保健所長も絡みます。
多くの人が入れば、必ず意見の相違が生じる。
何でも現場判断というのは簡単ですが、一定の基準が必要なのです。
同じ物差しで判断できるようにしなくてはいけません」

入院スコアと地域療養モデルが結びつけば、自宅療養者のケアは手厚くなる、と思われる。
だが、現場は戸惑う。
協同ふじさきクリニックの桑島医師は語る。

「川崎市も地域療養モデルの導入に前向きで、自宅療養の患者に対して、最初に医師と看護師が
訪問するよう呼びかけています。
でも、マンパワーの問題があります。
一つは開業医の高齢化です。
私も70歳を超えていますが、近隣を眺めても50代、60代、70代が多くて、、、
若い機動力のある医師がどのぐらい飛び込んできてくれるか。
24時間電話がつながる状態にするには、単独の医師では無理。
輪番でやるとか、やり方を考えなくてはいけない。
本来、酸素投与が必要な中等症の患者さんは、レントゲン、CTを撮って肺炎の評価をする必要がある。
微妙な調整をして、急激な悪化を防ぐには、片手間ではできない。
とくに一人暮らしの方にどんどん酸素を使うのはリスキーです。
在宅と入院の間に酸素投与ができるハーフウエーの施設を設けて、
そこに入っていただくのも一つの手段です」

・「ハーフウエー施設」開設

8月7日、桑島医師が言う「ハーフウエーの施設」が神奈川県で立ち上がった。
「かながわ緊急酸素投与センター」である。
医師が入院と判断した患者を、搬送先が決まるまでの間受け入れて酸素投与の応急処置を行なう。

当初、藤沢市の県立スポーツセンターでの準備が進んでいたが、五輪・パラリンピックの外国チームの
キャンプに使われることから、横浜伊勢佐木町ワシントンホテルに変更。
ベッドや酸素濃縮装置の機器を搬入し、看護師や医師の人員を配置して24床の酸素投与センターが
開設された。
初日夜から自宅や宿泊療養先で症状が悪化した患者が、続々と搬送されてきた。
やはり若い世代が多い。

神奈川県では、さらに10日から東横INN新横浜駅前新館の288室が新たな宿泊療養施設として稼働した。
現場は、医療崩壊を食い止めようとできる限りの手を尽くそうとしている。
それでも病床は満杯だ。

では、国は何をしているのか。
厚労省は医療提供体制(病床の確保)について、都道府県が患者推計モデルに基づいて、
それぞれの実情も加味して必要な病床数を算出せよ、と示している。
感染状況に応じてフェーズ1から4の段階に分け、それぞれの確保病床を決めて準備をしなさい
というわけだ。

国は、患者推計に必要なツールや基本的な考え方を提示するが、実際の病床の確保は都道府県の仕事
と割り切っている。
この考えに従って、東京都も約6000床を準備した。

しかし、感染爆発で病床は足りない。
制御不能、災害と似た状況だ。
いまこそ国は大病院の余裕のあるベッドをこじ開けてもいいのではないか。
たとえば、ある財閥系の病院は、いまだにコロナ患者を一人も診ていない。
コロナ以外の重い病気を受け持つためだというが、それが通用するのか。
医療は社会的共通資本なのである。

・「先週末くらいから『医療崩壊』の状況」と治療にあたる医師。
院内では、患者の血中酸素飽和度の低下を示すアラームが絶え間なく鳴り響く。
この病院も病床が逼迫しているという。8月11日、川崎市立多摩病院。(提供・共同)

・「新型コロナが襲ってきて以来、今、まさに最大級、災害級の危機を迎えている」
と小池知事。8月13日。(東京都ホームページ)

・酸素投与の応急処置をする緊急的施設「かながわ緊急酸素投与センター」。
(神奈川県ホームページ)

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