東京電力福島第一原発事故の影響で全機が停止中の国内の原発の一つが、再び動き出すことが確実になった。原子力規制委員会が16日、九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)について、新たな規制基準を満たすと認めた。ただ、過酷事故の際に、住民をどう避難させ、事故そのものを誰がどう止めるのかといった対応は不十分なままだ。事故の教訓を生かさないまま、安倍政権は規制委の「お墨付き」を得たとして他の原発の再稼働も加速させる考えだ。

(2面=審査に限界、5面=再稼働へ先例、14面=社説、38面=福島の痛み、39面=揺れる地元)

 

今後規制委は、30日間の意見募集のうえ、審査結果を正式決定し許可を出す。そのほかの認可手続きや検査、地元の同意を経ると再稼働が可能になる。

地元の鹿児島県薩摩川内市も再稼働に前向きで、九電が同意を得れば、10月にも再稼働が可能になる。

安倍政権は「規制委が基準に適合すると認めた原発は再稼働を進める」という方針のもと、規制委の人事などにも働きかけ、再稼働の環境整備をしてきた。安倍晋三首相は16日、「一歩前進ということだ。立地自治体の理解をいただきながら、再稼働を進めていきたい」と記者団に語った。規制委の審査結果を踏まえて、自治体の協力を得る方針だ。

政権としては再稼働の責任は規制委や電力会社にあるという考えだ。菅義偉官房長官はこの日の会見で「原発の安全性は規制委に委ねている。個々の再稼働は事業者(電力会社)の判断で決めることだ」と述べた。

ただ、田中俊一委員長は記者会見で「安全だということは、私は申し上げません。再稼働の判断にはかかわりません」と話した。

責任の所在はあいまいなままだが、川内と同じタイプの加圧水型炉は審査のひな型ができたことで審査が早まる見通しだ。関西電力高浜(福井県)は最終段階に近づき、九電玄海(佐賀県)や四国電伊方(愛媛県)、関電大飯(福井県)も議論がまとまりつつある。

一方、経済界は再稼働を歓迎している。(川田俊男、明楽麻子)

 

■避難計画、審査の対象外

原子力規制委員会の議論では、地震・津波からどう原発を守り、原子炉を冷やし続ける電源をどう確保するかなどの対策を整えはした。だが、深刻な事故が再び起きたら、住民をどう逃がし、暴走する原発をどう止めるのかという「福島の教訓」は反映されていない。政府は事故前と同じように、責任を地方と電力会社に押しつけたままだ。

政府は事故後、避難計画づくりを義務づける自治体を原発の半径8~10キロ圏内から30キロ圏内に広げた。川内原発でも対象の9市町が避難計画をつくったが、鹿児島県のシミュレーションでは、9割の住民が30キロ圏外に出るまでに、緊急事態宣言から最大28時間もかかることが判明した。

原発から5キロ圏内の住民の避難先が、1年のうち大半で原発の風下となる鹿児島市内になっている不備もある。患者や介護が必要な高齢者がいる病院や福祉施設の多くは、避難のための車両や受け入れ先を確保できずに悩んでいる。避難計画づくりに政府が関与せず、地方任せにしていることで、内容の妥当性が第三者からチェックされない。

このため、全国知事会議は16日、政府が避難行動などに積極的にかかわるよう求めた提言を採択。記者会見した山田啓二会長(京都府知事)は、「本当に広域避難できるのか。国は原子力規制庁の審査に頼るのでなく、全体の安全対策を取っていく必要がある」と強調した。

事故対策では、電力会社の作業員の手に負えないほどの「過酷事故」にどう対応するかも不十分だ。福島第一原発事故では、多数の作業員が法令上の被曝(ひばく)限度である100ミリシーベルトを超えて被曝した。担当者らが近くの第二原発に一時避難していたことも発覚したのに、作業員が総員退避する事態までは「極端な仮定」(原子力規制庁)として検討していない。

川内原発は、事故時の住民の避難指示などの拠点になる「オフサイトセンター」の改修完了が来年3月になりそうで、再稼働に間に合わない可能性が高い。原発から出る高レベル放射性廃棄物を捨てる最終処分場がないなど、置き去りにされた課題はほかにも山積している。

東山正宜、小池寛木)

 

■教訓置き去り

《解説》完璧に安全な原発はつくれない。しかし、その現実に国や電力会社が真剣に向き合っているとは思えない。このまま再稼働に踏み出していいはずはない。

この1年、原子力規制委員会の審査の取材で実感したのは安全対策に後ろ向きな電力会社の姿だった。時間と費用がかかりそうな指摘にはたびたび抵抗する。震災を経てもなお地震や津波の想定は甘く、多くが見直しを迫られた。

審査が「厳しい」との不満も聞こえるが、当然の指摘ばかりだった。基準はあくまで最低限に過ぎない。より安全性を高める意識が根付かないのなら、再び原発を動かす資格はない。

審査では、炉心が溶け落ち放射性物質が漏れ出るような過酷事故の手順も新たに確かめた。だが、電力会社で収束するのが基本で、再び深刻な事態になったとき、国がどう責任を取るのかは全く見えてこない。

そもそも審査対象は原発内部に限られ、避難計画は自治体任せだ。不安を抱えながらも原発を受け入れてきた住民は、机上の計画などあてにならないことを肌で知っている。事故の影響は県境をはるかに越え、自治体だけに委ねられる問題ではない。にもかかわらず、安倍政権は規制委を隠れみのに再稼働の責任から逃れているように見える。

事故が起きれば、人の手に負えなくなること、多くの人の故郷や暮らしが奪われることを私たちは福島で目の当たりにした。事故のリスクを踏まえても、再び原発を使うことを社会は望んでいるのだろうか。民意を探ろうとせず、いつの間にか再稼働が進んでいくことは許されない。(小池竜太)